先進医療
1. 子宮内膜刺激術(SEET法)
日本産婦人科学会は、多胎を防ぐ観点から、原則1個の胚移植を推奨しています。
SEET法では、一段回目に移植する初期胚の代わりに胚培養液を子宮に注入することで子宮内膜の胚の受け入れ体制を整えた後、二段階目に胚盤胞を移植する方法です。融解胚移植ホルモン補充周期において胚移植の2〜3日前に培養液をカテーテルで子宮内に注入します。
SEET法の最大のメリットは、移植に用いる胚盤胞を1個にすることで、多胎を防ぐと同時に、妊娠率が向上する可能性があります。
2. 子宮内膜着床能検査
子宮内膜には受精卵が着床可能なタイミング(着床の窓)が存在します。
着床の窓が一般的なタイミングからずれていないか、関連する遺伝子の発現レベルを調べて確認します。
ずれがあると判断された場合は、胚移植のタイミングを検査結果に合わせて移動させます。
3. 子宮内フローラ検査
子宮内に存在する細菌の種類と量を測定し、そのバランスを調べます。
近年の遺伝子解析技術の進歩により、子宮内にも微量な菌が存在し、複数の菌による子宮内細菌叢を構成していることが明らかとなってきました。膣内細菌叢と同じく、ラクトバチルス(乳酸菌)優位な環境が生理的であり、この割合が低下すると、妊娠成功率が低下、挙児獲得率が低下するとの報告があります。
4. PICSI
(Physiologic intracytoplasmic sperm injection)
顕微授精(ICSI)に用いる精子は、一般的に運動性と形態によって選別します。
PICSIでは、DNA損傷を起こしていない成熟した精子がヒアルロン酸に結合しやすいという性質を利用して、より良好な精子の選別をします。
5. タイムラプスインキュベーター

受精卵を培養しながら10分毎に写真撮影し、受精卵の詳細な変化を記録することができます。
特殊治療
1. 卵子活性化
顕微授精を行ってもまったく受精しない原因不明の受精障害があります。
これは、精子が卵子の中に入っても卵子の活性化が起こらず、次のステージへの成長が阻害されていると考えられます。
このような場合、カルシウムイオノフォア処理という特殊な方法で卵子を人為的に活性化させて受精を助けています。
2. 二段階胚移植
分割胚移植と胚盤胞移植を同一周期に続けて行う方法です。1回目の移植により子宮内膜が刺激を受け、2回目の移植胚の着床率が上昇すると報告されています。
反復不成功症例が主な対象となります。
3. 未熟卵体外培養体外受精
未熟卵の段階で採卵し、体外で成熟させた後に体外受精や顕微授精を行う方法です。
排卵誘発剤をほとんど使用せず、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクのない、負担の少ない方法です。
多嚢胞性卵巣の方が主な対象となります。
4. 卵子凍結(未受精卵凍結)
受精卵と比較して卵子の凍結融解後の生存率はやや劣るとされていましたが、技術向上により遜色ないものとなり、当院でも実績を上げています。
卵子凍結を応用する場面としては、採卵当日に予期せず精子が採取できなかった又はみつからなかった場合、精巣手術(無精子症治療)後の極少精子症例において、ワンチャンスの精子融解・顕微授精に備え、より多くの卵子を確保しておきたい場合、ガンを患った未婚女性で治療後の妊孕性低下が心配される場合、将来の妊孕性低下に備えた社会的適応などが挙げられます。
副作用や問題点
※ | 卵子を採取するまでには、通常の体外受精時同様に、卵巣刺激や採卵に伴う合併症が生じえます。 |
※ | 卵子の凍結・融解の際にも、胚の凍結・融解と同様に、操作侵襲による質の低下や損壊の可能性がありえます。 |
5. 感染性慢性子宮内膜炎検査
慢性子宮内膜炎は、不妊原因の一つです。この疾患は子宮内膜の炎症を引き起こしますが、ほとんどの場合自覚症状がありません。この検査では、慢性子宮内膜炎の原因菌を検出し、適切な抗生物質と治療法を提案します。
6. G-CSF療法
G-CSF(Granulocyte Colony Stimulating Factor顆粒球コロニー刺激因子)は、免疫細胞などで産生されるサイトカインの一種です。好中球の増殖、分化、作用を促進するため、がん治療中の好中球減少症など、血液疾患の治療に使用されています。妊娠においても、子宮内膜の細胞を刺激し、内膜を厚くしたり着床環境を改善することが期待されています。
当院では、子宮内膜が薄い方、良好胚を戻しても妊娠に至らない方、反復不成功例を対象にご夫婦の同意を得て試みています。
胚移植の数日前にG-CSF(フィルグラスチム300μg)を子宮内に注入します。
7. PFC-FD療法
これまで当院では、厚生労働省認可のもとPRP療法を実施してきましたが、より安全性が高く簡便で同様の効果が期待されるPFC-FD療法へと移行いたしました。
PRP療法
PRP子宮内注入療法は、ご自身の血液から抽出した高濃度の血小板血漿(PRP)を利用した治療です。PRPには、細胞の成長を促す物質や免疫に関わる物質が多く含まれ、組織の修復・治癒・血管新生を促すことが知られています。『再生医療』の一種で、整形外科領域(スポーツ選手の損傷修復)や歯科・皮膚科領域などで目覚ましい効果が報告されています。産婦人科領域においては、子宮内に注入することで、子宮内膜の環境改善や胚の着床・成長の促進が、卵巣内に注入することで、卵胞を活性化、発育卵子数の増加が期待されています。
PFC-FD療法
高濃度の血小板血漿(PRP)から、成長因子を取り出して濃縮し、フリーズドライさせたものがPFC-FD(Platelet-Derived Factor Concentrate - Freeze Dry)です。ご自身の血液からあらかじめ作成し室温保存しているPFC-FDを、施術日当日に融解して治療に用います。
子宮内膜が薄い方、良好胚を移植してもなかなか着床しない方(子宮内投与)、発育卵胞数が少ない方、卵胞発育がなかなかみられない方(卵巣内投与)が対象となります。
副作用や問題点
※ | 保険適応外の治療です。 |
※ | ご自身の由来の細胞成分を含まない物質を用いるため、副作用はほぼなく極めて安全です。操作に伴う痛み、出血、感染等の副作用は伴います。 |
※ | 作成に約3週間を要し、有効期限は6ヵ月です。 |
※ | 治療効果には個人差があります。 |
以下の方は対象外となります。
※ | 血小板数が少ない方 |
※ | 抗凝固療法を行っている方 |
※ | 肝機能に問題がある方 |
※ | 癌治療中の方 |
※ | B型、C型肝炎など感染症が陽性の方 |
※ | その他医師の診断により不適合と判断された場合 |
8. 着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)
女性の年齢上昇に伴って異数性卵子の割合が増え、妊娠率の低下、流産率の上昇につながることが知られています。胚の染色体異数性(染色体数の過不足)が妊娠不成功・流産の最大の要因となる所以ですが、着床前に染色体の数を調べ、異数性胚を除いて移植を行うことで、妊娠率の向上、流産率の低下、治療期間の短縮が期待されます。
PGT-Aは、日本産科婦人科学会で選任された施設において、条件※を満たした方に対してのみ可能です。ご関心のある方は診察時に医師にお尋ねください。
※ | 過去2回の流産または過去2回の体外受精不成功のカップル |